東京高等裁判所 昭和52年(ラ)1100号 決定 1978年3月17日
抗告人 佐川勝宣
<ほか五名>
右六名代理人弁護士 小沢浩
相手方 株式会社石河商会
右代表者代表取締役 石河英夫
相手方 株式会社冨士工
右代表者代表取締役 馬場弘良
主文
本件抗告を棄却する。
抗告費用は抗告人らの負担とする。
理由
本件抗告の趣旨及び理由は別紙記載のとおりである。
よって、判断するに、本件記録によれば、原決定理由一の(一)(原決定二枚目裏三行目から九枚目裏九行目まで)記載の事実が認められ(ただし、原決定七枚目表八行目及び同裏一二行目の各「九時頃」をいずれも「九時三〇分頃に、同行目から同末行にかけての「約一時間二〇分」を「約五〇分」にそれぞれ改める。なお、抗告人らは、原決定が抗告人らの日照被害を検討するに当って、抗告人小沢方建物につき東側二階六畳間を、また一〇三、一〇四、二〇四、三〇四の各建物部分につきいずれも北側六畳間を基準としたことを云々するが、原決定は、抗告人らの各建物の東側に開口部のある部屋のうち、本件建物以外の建物(抗告人らの建物を含む)の日影の影響が比較的少ない部屋を基準として本件建物の日影による影響を検討したものであって、これを不当とするには当らない。)、右認定したところによれば、抗告人らが本件建物の建築によって受ける日照等の被害はいまだ本件建物のうち抗告人ら主張部分の建築禁止を求めうるほどに著しく受忍限度を超えているものと認めることはできないとした原決定の判断は肯認することができ(原決定の事実認定につき前述のとおり当裁判所はその一部を訂正したが、右は原決定の結論に影響を与えるものではない。)、原決定に所論の違法はない。
また、抗告人らは、予備的に民法二三四条一項を根拠として、本件土地と小沢方敷地及び東中野コーポラス敷地との境界線から五〇センチメートル内にある本件建物部分の建築禁止を求めるが、本件記録によれば、本件土地付近は準防火地域に属し、本件建物の外壁は耐火構造であることが認められるところ、建築基準法六五条は、防火地域又は準防火地域内にある建築物で、外壁が耐火構造のものについては、その外壁を隣地境界線に接して設けることができると定めており、右規定の趣旨は防火という観点に止まらず、右の地域に属する土地の合理的、効率的な利用を図りつつ、耐火構造の建築物に限る点で相隣者の利益をも考慮に入れたもので、我国古来の慣習を成文化したに止まる民法二三四条一項の特則を定めたものと解するのが相当であり、そうすると、建築基準法六五条所定の要件を充足する本件においては、相手方石河商会は本件建物を境界線に接して建築することができるものであって、抗告人らは民法二三四条一項を根拠に本件建物の建築禁止を求めえないことが明らかであり、これと同旨の原決定の判断は是認できる。
そうすると、抗告人らの本件仮処分申請は、被保全権利について疎明がなく、かつ疎明に代る保証を立てさせてこれを認容するのも相当でないから、これを却下すべきであるとした原決定は正当である。
よって、本件抗告を棄却し、抗告費用は抗告人らに負担させることにし、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 安岡満彦 裁判官 内藤正久 堂薗守正)
<以下省略>